和菓子職人 岡本伸治

和菓子クリエイター&墨絵作家。三重県四日市の45歳。和菓子屋「(有)夢菓子工房ことよ」社長。大学や菓子専門学校の非常勤講師や海外で和菓子の良さを伝えている。2019年5月からTikTokを始め、1年で6万弱のフォロワーを獲得。第1回TikTokクリエイターアワーに招待され出演。TikTokのCM「伝統文化編」にも起用された。日本の伝統的な和菓子からキャラクター和菓子など製作者目線で投稿。海外からのフォロワーも多い。最近は墨絵なども発信している。

Film

クリエイタードキュメンタリー

1:00

Direction: Taiki Omi (TKM Films) / Camera: Mai Maruyama / Music: Dony Westin / Edit: Yuki Nakamori, Shigeru Mizusawa

3:24

Interview

クリエイターインタビュー

クリエイターにTikTokを始めたきっかけや動画制作についてインタビューしました。

ご本人のバックグラウンドを教えて下さい 。

1974年生まれ 、45 歳です。実家が代々和菓子屋で、私は 3 代目として家業を継ぎました。
高校を卒業してすぐ修行に出て、 24 で家に戻り 、 28 歳で社長になりました 。28歳の時にちょうどテレビチャンピオンという番組があり、それに出演することになりました 。
10 年ほど前、その番組に4回出させて頂いて、テレビチャンピオン極みという BS の番組になってからも一度(去年 9 月)出演しました。オファーを最初にいただいてからは、合計 5 回出演しましたね 。
今は、NHK ローカルの企画(や、まだはっきりしないがジョブチューン、セブンイレブンスイーツをジャッジする審査員にも名前が上がっている)などのメディア露出のお話も頂いています 。それ以外の活動だと、愛知県にある大学の非常勤講師として 16 年ほど和菓子を教えています 。地
元の製菓学校の非常勤講師も 8 年行っています。立ち位置的には「変わった和菓子屋さん」という感じで、創作的な和菓子、伝統的な和菓子、このどちらも作っています 。
海外でも指導をしていて、フランス、ドイツ、中国の領事館、フィリピン、台湾などでも活動を行っています 。こちらが行って指導をすることもありますが、中国や韓国といった海外からわざわざ日本に来てくれた子たちに対して、お菓子作りを教えるってこともしています。今年 3 月までは
フランス人の女の子も一人修行に来ていましたね。テレビをはじめ数多くのメディアが来ていて、僕へのオファーがなくなって、彼女のオファーばかりという状況にこの3年間はなっていましたね。(笑)

TikTok は、いつから使うようになりましたか。

元々は娘が使っているのを見ているだけでした。娘は「さくらちゃん」が大好きで。隣で見ながら、最初は自分には合わない媒体だな、と思っていました。でも、やってみたらどハマりしていました。今ではかなり可能性があると感じています。
海外に行く時とかは特にいいです。和菓子の説明をする時、長い説明だと通訳さんも大変になってしまうし、写真を見せるだけでは伝わらないことも沢山あります 。平成30 年あたりの情報なんですが、年間で作られているお菓子の総 〜〜 て言うのは 「 2 兆 4985 億円」なんです。このうち 1 位がチョコレート 3880 億円 )、 2 位が和菓子 3812 億円:去年約 2兆)なんです。洋菓子が上回っているイメージがあると思いますが、洋菓子の数字は 、 3334 億円なんです。僕は平成 20 年頃からずっと数字を見ているんですが、和菓子が洋菓子に追いつかれそ
うになったことはないんです。この数字には、材料に使われるチョコレートもこのランキングには含まれているので、もしかすると純粋に作られているお菓子の量でいうと、和菓子は世界一になっているかもしれないですよね。和菓子の数字の伸びにはインバウンド、海外の方からの需要も大きく関わって来ているんです 。
和菓子を食べている人がこれほどまでに多いということは、和菓子のことを知りたいという人もやっぱりたくさんいるはずなんです。でも、本屋さんに行くとよくわかりますが、 洋菓子の本はたくさんあっても、和菓子作りの本は数冊しかないとかっていうことが多い。これは、直に行って、見聞きしてもらわないと、伝わりづらいと言うことが大きい。何百年間同じ手法でやっているが、それを伝えられる媒体が少ない。最終的には映像なのだろうとはずっと思っていたが、 Youtube に動画をあげたところでそれを流して見てくれる人は少ないだろうと思っていた。
そこでちょうど誘いを受けて、TikTok をやってみてすごくよかったんですよね。
編集ももともと不得意ではあったが、やり始めると自分で色々と工夫をしてみて、次第に色々とできるようになっていきました。 TikTok ていう媒体がなければ、動画配信に関しては、手を出したくてもずっと手を付けられないでいました ね 。
時間がかかる自分の仕事を、短時間でしかも音楽に合わせてやるなど、想像もつかない世界。だけど、これは他の職人も同じだと思います。でも、そこに欲求がないかというと欲求はある。皆自分の仕事を誰かに見てほしい、知ってほしいという欲求はあるけれど、ただその媒体を知らないだけだと思います。
個人的に、時間制限があるのはすごくありがたい。3 分 4 分とかの動画になると、撮る側がよくても見る側が辛い。和菓子でこうした成功が起きているので、他のコンテンツについても、TikTok でいけるものはたくさんあると思います。例えば、フランスで陶器を作っている人とか、僕の地元にも有名な陶芸品があるんですけど、そうしたところでも、メイキング動画をとって、繋いで投稿とかをしたら面白いと思います。彼らはただ、やってないだけです。動画の編集とかについても、こうやったらできるんだってことを知りさえすればどハマりするでしょう。
和菓子は伝統文化すぎて、特に上の層の人たちですが、製法を公開することを嫌う人たちは業界にたくさんいます。 しかし、叩かれない年齢層の人たち(自分のような)がこういうことに手を出すようになって来ました。中堅よりちょっと上の人がやってるってことで、どうやってやってるんで
すか、とかって聞いてくる人も最近増えて来たんです。みんなが始めたらまた自分は他の新しいことをしていきたいです。 今後は「和菓子っていう媒体がよく見られるようになったね」となるのが理想 です。
今は、「和菓子を作ったことありますか」とどこで聞いても、和菓子を作ったことがない、という状況です。でも、食べたことがあるか、という質問にはみんな Yes と答えます。 作り方知らない、作り方見たことない、という人がほとんど。作る前にイメージとして動画を見るっていうのはいいことですよね 。
学校に行ってこういう話をすると、初めは「先生踊るんですか?」とびっくりされます。でもそれで掴みはバッチリできて、若い人たちとの距離をグッと縮められるんです。

常にパイオニアとして、新しいことに挑戦、発信を続けるモチベーションは何ですか。

一番は、和菓子作りが大好きなことですね。一度も飽きたことはないです。こんないい仕事があるんだよってことをみんなに知ってほしいです。
フランスの人たちを見てみると、フランス菓子のことを「私たちの国のお菓子」と自信を持って言っている。日本も、和菓子はこの国のお菓子であることは変わらないのに、和菓子について知らない人が多すぎるように感じます。和菓子を食べている人はたくさんいるんですが、みんな作ったことがないんですよね。
ただ、自分でやってみたいって人は、最近増えて来ています。和菓子作りが体験型に移行してきていることが大きいですね。海外からのお客さんが増えているのも良い例ですね。和菓子の講座って、探してみてもほとんどないんです。でも、TikTok のようなショートムービーの媒体があることで、和菓子の作り方を、誰もが好きな時に、短い時間だけで手軽に見れるようになった。それを通して「自分が好きなものを伝えたい」という思いを叶えてくれた場が、 TikTokでした。
こんないい仕事あるんだよを伝えたいです。和菓子って嗜好品だとおもっているんで。京都には1600 年続く企業だってある、すごい業界なんです。
1951年ころより菓子博が開催されているんですが、全国大会は広島であったんです。 広島って、原爆もあったじゃないですか、原爆で、施設も資料も無くなって、本当に必要ないものであれば復活なんてするはずないですよね。でも、もみじ饅頭のような和菓子は復活したんですよ。日本の中で、和菓子って必要なんだね、ということを認識しました。